税制改正大綱・・相続税・贈与税の改正事項

与党より平成25年1月24日に税制改正大綱が公表されました。それらのうち、相続・贈与税制の主要な項目につき「税務通信NO3248号」より掲載いたします。

今回の改正では、相続税の基礎控除を引き下げることで、納税者の比率を高め、また最高税率をアップして富裕層に負担をもとめています。一方で、高齢者から若年層への財産移転を促すように、贈与税の仕組みの変更を行っています。
 事業承継税制についても手直しを行い、柔軟化が図られています。

①相続税の基礎控除の引下げ
バブル期の地価に対応していた基礎控除の水準をバブル前の水準に戻すため,定額控除と比例控除が引き下げられる。

現 行改 正 後
定額控除5,000万円3,000万円
法定相続人比例控除1,000万円×法定相続人数600万円×法定相続人数

②相続税の税率構造の見直し
資産再配分機能を回復させ,格差固定を防止するなどの観点から,高額な遺産取得者を中心に負担を求めるため税率構造が見直される。

【現行】

法定相続人の取得金額税率
(%)
控除額
(万円)
1,000万円以下10-
1,000万円超3,000万円以下1550
3,000万円超5,000万円以下20200
5,000万円超1億円以下30700
1億円超3億円以下401700
3億円超504700

【改正後】

法定相続人の取得金額税率
(%)
控除額
(万円)
1,000万円以下10-
1,000万円超3,000万円以下1550
3,000万円超5,000万円以下20200
5,000万円超1億円以下30700
1億円超2億円以下401700
2億円超3億円以下452700
3億円超6億円以下504200
6億円超557200

③未成年者控除と障害者控除の引き上げ
これらの控除額は長年据え置かれていたので,物価動向や基礎控除の見直しを踏まえて引き上げられる。

現 行改 正 後
未成年者控除20歳までの1年につき6万円20歳までの1年につき10万円
障害者控除85歳までの1年につき6万円
(特別障害者については12万円)
85歳までの1年につき10万円
(特別障害者については20万円)

<適用時期>
①から③の相続税の改正は,平成27年1月1日以後の相続・遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される。

④贈与税の税率構造の見直し
高齢者が保有する資産の早期移転を促進し,消費拡大を通じた経済活性化を図る観点から,税率構造を見直し,直系卑属への贈与に係る贈与税率の特例を創設する。

20歳以上の子や孫が受贈者となる直系尊属からの贈与については特別に税率構造が緩和され,「直系尊属からの贈与」と「一般の贈与」とでは適用される税率が次のように異なることになる。同一年中に直系尊属とそれ以外の者からの贈与がある場合について,基礎控除の適用に係る調整規定が置かれると考えられる。
【現行】

基礎控除後の課税価格税率
(%)
控除額
(万円)
200万円以下10-
200万円超300万円以下1510
300万円超400万円以下2025
400万円超600万円以下3065
600万円超1,000万円以下40125
1,000万円超50225

【改正後】直系尊属からの贈与

基礎控除後の課税価格税率
(%)
控除額
(万円)
200万円以下10-
200万円超400万円以下1510
400万円超600万円以下2030
600万円超1,000万円以下3090
1,000万円超1,500万円以下40190
1,500万円超3,000万円以下45265
3,000万円超4,500万円以下50415
4,500万円超55640

【改正後】一般の贈与

基礎控除後の課税価格税率
(%)
控除額
(万円)
200万円以下10-
200万円超300万円以下1510
300万円超400万円以下2025
400万円超600万円以下3065
600万円超1,000万円以下40125
1,000万円超1,500万円以下45175
1,500万円超3,000万円以下50250
3,000万円超55400

⑤相続時精算課税制度の適用要件の見直し
贈与者の年齢要件を65歳以上から60歳以上に引き下げ,受贈者の範囲に20歳以上の孫を追加する。

<適用時期>
これらの贈与税関係の改正は,平成27年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。

⑥小規模宅地特例の見直し
・特定居住用宅地等の適用対象面積を240㎡から330㎡までの部分に拡大する。

・特定居住用宅地と特定事業用宅地とがある場合の併用について,それぞれの限度面積(居住用330㎡,事業用400㎡)まで適用を拡大する。完全併用だと最大で730㎡が特例の対象となる(貸付事業用宅地を選択する場合の計算は現行どおり調整する)。

・構造上区分された一棟の二世帯住宅では特例が不適用となるケースがあったが,構造上の要件を緩和する(※)。

・老人ホームの終身利用権を取得して入居している場合でも,介護が必要なため入所したもので,貸付け用となっていない場合には特定の適用を認める(※)。

<適用時期>
居住用宅地の面積の引上げ,事業用と併用の調整計算の撤廃は平成27年1月1日,二世帯住宅の適用要件の緩和と老人ホーム入居の場合の適用については(※)平成26年1月1日以後の相続・遺贈について適用される。

⑦事業承継税制の抜本的な見直し
非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について,より多くの中小企業が利用できるように,要件の緩和と負担の軽減,手続きの簡素化が行われる。要件緩和の主なものは以下のとおり。

・雇用確保要件を緩和し,「毎年8割以上」から「5年間平均で8割以上」とする。
・親族外の後継者への相続・贈与でも適用対象とする。
・先代経営者は贈与時に代表者を退任すれば,贈与後に引き続き役員でも適用対象とする。
・役員である贈与者が認定会社から給与の支給を受けた場合でも贈与税の納税猶予の取消事由に該当しないこととする。

事業承継税制の見直しでは,このほか,利子税の負担軽減や計算方法の見直しと,相続・贈与前の経済産業大臣による事前確認制度の廃止,相続税申告書や継続届出書等への添付書類の簡素化など,手間暇がかかるとされた手続きの簡素化も行われる。

<適用時期>
平成27年1月1日以後の相続・遺贈・贈与により取得する財産に係る相続税・贈与税について適用される。

⑧教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設
30歳未満の子や孫へ教育資金を拠出し,金融機関に信託等した場合,受贈者(子・孫)1人当たり1,500万円(学校以外は500万円)を非課税とする特例が創設される。

・教育資金は学校等に支払う入学金等の金銭と学校以外の者に支払われる金銭のうち一定のもの。具体的な範囲は文部科学大臣が定める。

・受贈者は教育資金の非課税申告書を金融機関を通じて税務署長に提出,払い戻しをした場合,教育資金の支払いに充当したことを証する書類を金融機関に提出する。

・受贈者が30歳に達した場合,金融機関は教育資金として払い出した金額の合計金額(教育資金支出額)を記載した調書を税務署長に提出,教育資金支出額を除いた残額は30歳に達した日に贈与があったものとして贈与税が課税される。

<適用時期>
平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に拠出されるものに限り,非課税特例の対象となる。

2013年2月6日