最低の鞍部で越えるな、それは誰の得にもならないだろう。

まだ学生時代か学校を卒業したかの時分に読んだ本に紹介されていた言葉である。出典は、本多秋吾という戦後文学者が、「戦後文学者」と呼ばれる作家群を批判する評論家に対して述べた一節である。

当時、山のぼりをしていた関係もあり、鞍部(コル)という言葉により敏感に反応したせいもあるかもしれない。鞍部というのは、山の尾根で凹ところをいう。

批判や批評するのは結構であるが、批判する相手の一番のウィークポイント(最低の鞍部)をついて批判し、それをもって相手を打ちのめしたとするのは真の批判にならない。批判する相手に対しては、その相手の価値や言い分を、さらには潜在的に持っている価値までも十分にひっぱりあげたうえで、批判するのが真の態度であるし、そうでないと相互に残るものがない、といった意味であろうか。
座右の銘というわけでないが、読んだあとも長く印象に残り、折々に思い返している。

投稿者:春田2014年2月10日