日本経済新聞の現在掲載中の私の履歴書(日立製作所相談役川村隆)2015.5.23より
川村氏は日立製作所(以下日立)の副社長のあと、子会社の会長に就任していた。その後、低迷する日立の立直しのため、社長となる。その当時の状況を回顧しての話である。
「・・思い出したのは英国軍艦の話だ。軍艦は特に手を打たなければ毎年1センチずつ喫水が下がり、速度が遅くなって、使いものにならなくなるという。船体の経年変化や貝殻の付着のせいではなく、原因は人だ。乗組員が自室にこっそり本や服など私物を持ち込み、それが積もり積もって船が重くなり、水中に沈み込むのだ。」
会社も同様であるという。順調に推移していると思っていると、「みんな油断して小さなムダや非効率を積み重ねる。そしてふと気づくと、会社が重くなり、しがらみやその他で身動きがとれなくなっているのだ。」
また5.21の稿では、「ラストマン」いう言葉を紹介している。ラストマンとは船の船長のようなもので、「嵐がきて万策尽きて船の沈没やむなしとなった時、すべての乗客や船員が下船したのを見届けて、最後に船から離れる。だから船長をザ・ラストマンと呼ぶのだ」このことを川村氏は課長時代に上司から聞かされ、「最終責任者とはつらい商売だな。自分がそんな立場に身を置くとはあるまいが・・」と思っていたという。
社長就任の要請があった際、引き受けるかどうか迷っているときに、このラストマンの言葉を思い出し、その役割を引き受けようと天啓のごとくひらめいたという。
要は人が組織を支えているということだ。
組織構成員のモラルの維持(向上)を図り、組織のトップは自分が全責任を負うのだという覚悟をもって指揮しなければならない。
言葉にしてみれば、あまりに当然のことであるが、実際に組織が破綻するかどうかの瀬戸際に立たされた現場(もちろん日立とは規模はまったくちがうが)を幾度かみていると、重いものを感じるのである。