96歳を生きる

父は今年96歳。健在です。
母亡き後、一人暮らしを続け、食事を自分で拵え、午後は句作に励み、来年母の13回忌を迎えます。私宛の手紙には、最後に必ず3句添えられておりますが、そこには、父の人となりが感じられます。

まず、父は有名な愛妻家でした。
 紫は 妻の好みし 花菖蒲
 天の川 妻との日々の 遠くなり 
 仏壇の 妻と分け合う さくらんぼ
 恙なく 妻に門火を 今年また
 聞かせ度き こともいくつか 墓洗う

ときどき、子どもたちも登場します。
 遠く住む 子等想ふ日や 鳥渡る
 夕蛙 遠く住む子等 想いをり
 薫風に 乗りて佳信の つぎつぎと

若き日、戦地に赴いた体験も鮮烈のようです。
 コスモスの 駅より征きし 日の遠く
 黄砂くる 老いてなほみる 兵の夢
 戦野駆け しことなど想い 夕端居(ゆうはしい)

やはり一人暮らしは寂しそうです。
 三方の 空きしままなる 春炬燵
 迎えるも 送るもひとり 門火焚く
 こらえ性 とみに衰え 秋暑し

なにげない日常の一こまを。
 抜けられぬ 昭和の習ひ 年用意
 踏み切りに 待つ間のつるべ 落としかな
 六月の 雨美しき 誕生日

今年に入ってからの作です。
 もどり寒 謀反のごとく 大雪に
 サッカーに 熱くもなれず 冷奴

父の生き方そのものです。
 倖せは 目立たぬが佳し 遅桜
 生きるとは あきらめぬこと 春深し

100歳をめざして。
 百才を 目差す苗木を 植えもして

平成26年7月13日 父には内緒で。                

投稿者:K2014年7月15日