身延線を利用して、甲府(甲府は南アルプスの北の玄関口)や、甲府から中央線に乗り換え松本さらに小梅線に乗り換え八ヶ岳方面などに向かったものである。むろん身延駅にもよく乗降車した。身延駅は身延線のほぼ中央に位置するが、身延で降りてバスで登山口にむかったり、甲府から入山したあとに身延駅へ戻ったりしたものだ。もう40年以上もまえのことだが、身延駅の小さな駅舎で何度も時を過ごしたはずである。
最近、機会があって身延駅に立ち寄ることがあった。当時の身延駅前の様子についてはまったく記憶にないが、それでも、とても懐かしい気持ちがわいてくる。駅に併設されていた蕎麦売りのスタンドが(たぶん)同じ場所にあり、そういうと、このスタンドで蕎麦をよく食べたことを思いだす。この蕎麦、出汁が真っ黒で甘からいものであった。今回立ち寄った際は時間の関係か、新型コロナウィルスの影響か、シャッターがおりていた。駅前にでて、通りの街並みを見渡しても、人も歩いておらず、静かで小綺麗な佇まいといった印象だ。しばらく眺めてみるが、当時の記憶はまったく甦らない。
その当時は、身延駅は山に行くだけの中継点であったが、今回は、身延山を本山とする日蓮宗の総本山である久遠寺を訪れた。
「釈迦仏は霊山に居して八箇年法華経を説き給う。日蓮は身延山に居して九箇年の読誦なり。伝教大師は比叡山に居して三十余年の法華経の行者なり。しかりといえども、かの山は濁れる山なり。我がこの山は天竺の霊山にも勝ぐれ日域の比叡山にも勝れたり。しかれば、吹く風もゆるぐ木草も流るる水の音までも、この山には妙法の五字を唱えず云うことなし。日蓮が弟子檀那等はこの山を本として参るべし。これ則ち霊山の契りなり。」